眼内レンズ強膜内固定術
強膜内固定 ダブルニードル&フランジ法
硝子体手術 説明
眼内レンズ強膜内固定術 01眼内レンズ強膜内固定術とは
通常の白内障手術では、水晶体の袋(嚢)を残したまま中の濁りを除去し、袋の中に眼内レンズを固定しますが、何かしらの原因で水晶体の袋を残すことができなかったり(水晶体偏位、水晶体落下、チン小帯脆弱など)、一度入れた眼内レンズが袋ごとずれてしまった場合(眼内レンズ偏位)に行われる手術です。(図1)
眼内レンズのループ(支持部:脚)を眼球の白目(強膜)に直接固定する眼内レンズ強膜内固定術が広く行われています。
図1
- 水晶体偏位
- 眼内レンズ編位
- 水晶体落下
眼内レンズ強膜内固定術 02眼内レンズ強膜内固定の実際
麻酔は点眼麻酔に加えて、テノン嚢下麻酔あるいは経結膜球後麻酔(結膜を小さく切開して目の後ろ側に入れる麻酔)で行います。麻酔が効くと、手術中の痛みはほとんど感じません。
手術は強膜(白目)に約3-7mm程度の傷口をつくり、ずれてしまっている水晶体や眼内レンズを摘出します。(眼内レンズはそのまま固定に利用できるケースもありますが、挿入された眼内レンズの材質や状態により判断します。)
また、眼内の硝子体の線維が眼内レンズに絡んだり、創口から脱出するのを予防するために硝子体手術を併用し硝子体を切除します。(3の硝子体手術についてを参照)
次に眼内レンズを眼内に挿入します(図2A)。眼内レンズは強膜内固定用のレンズを使用します。30G(直径0.4mm)の細い注射針をガイドに使用して、眼内レンズの脚を強膜を通過させ眼外に誘導し(図2B)、眼内レンズの脚を熱で加工し(図2C)、その脚を結膜の下に埋め込んで眼内レンズを固定します(図2D)。この操作は無縫合で行うことが可能です。
従来行われていた縫合糸を用いる眼内レンズ縫着術とくらべ、低侵襲・短時間の手術で、術後の痛みや異物感は少ないとされています。(図3)(図4)(図5)
出典:
Flanged Intrascleral Intraocular Lens Fixation with Double-Needle Technique. Yamane S, et al. Ophthalmology. 2017.
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図3
術前写真:眼内レンズ脱臼
(眼内レンズが脱臼して前房内に脱出している) -
図4
術後写真:強膜内固定後
(脱臼した眼内レンズを摘出し、新たなレンズを用いて強膜内固定を行った。術後良好な固定が得られた。) -
図5
術後写真:
強膜内に埋没させた眼内レンズのループ(脚)が結膜下に観察される
眼内レンズ強膜内固定術 03硝子体手術について
目の中に器械をいれて硝子体を切除する手術です。眼内レンズ強膜内固定を行う際には一緒に併施するのが一般的です。硝子体を十分に切除しておかないと、レンズのループに硝子体の線維が絡まってしまい、術中・術後に網膜剥離などの合併症が発生する可能性があるからです。
角膜輪部(黒目と白目の境界)から3.5-4mmの位置に3か所の小さな穴を開けます。当院では直径0.5mmの25G(ゲージ)または直径0.4mmの27Gの小切開低侵襲の硝子体手術を行っています。それぞれの穴から硝子体を切除する硝子体カッター、眼内を照らす照明器具、眼内を一定の圧に保つための灌流液を流す回路を挿入します。(図6)(図7)
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図6
硝子体手術のイラスト -
図7
実際の手術画面
はじめに硝子体を切除しますが、その際に眼底の周辺部に異常がないか詳細に観察します。網膜が弱くなっている変性巣や硝子体の牽引を残したまま手術を終えてしまうと術後に網膜剥離を発症するリスクが上がるからです。網膜裂孔がある場合にはレーザー光凝固を行います。網膜剥離を伴っている場合は、眼内の水を空気やガスと置換して手術を終了します。
小切開の硝子体手術では、創口が小さく、良好な創閉鎖が得られるため、基本的に無縫合で終了します。若年者や強度近視の方、眼科手術歴がある方などで創口の閉鎖が不良と考えられる場合は吸収糸で縫合します。吸収糸は1-2カ月程度で吸収されますが、術後に異物感が続いたり、充血が強い場合は抜糸も可能です。
眼内レンズ強膜内固定術 04麻酔について
基本的に局所麻酔で行います。結膜(白目)を切って、目の後ろ側に先が鈍の針を用いて麻酔薬を2-4 ml程度注入します。麻酔時は眼を押される鈍痛が数秒ありますが、その後の手術中に痛みを感じることはほとんどありません。局所麻酔だと意識は残るため、不安が強い方に対しては低濃度笑気麻酔を用いたり、点滴から気分を落ち着かせる薬(鎮静剤)を入れることもあります。
局所麻酔だと不安だという方、全身疾患のため局所麻酔の施術が困難な方に対しては全身麻酔での施術も可能ですのでご相談ください。
低濃度笑気麻酔
もともと歯科治療で広く使用されていましたが、近年眼科手術でも使われるようになり当院でも導入しています。軽い鎮静・鎮痛作用と睡眠作用があります。眠ってしまうほどの強い麻酔ではなく、ぼんやりと体がふわふわするような気持ち良い感覚になります。使用後は速やかに体外へ排出され、数分で元の状態に戻るため日帰り手術でも安心してお使い頂けます。(図8)
低濃度笑気麻酔
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全身麻酔
当院は46床を有し、非常勤の麻酔科医師を招聘しており、多数の全身麻酔手術を行っています。小児や認知症の患者様、局所麻酔だと不安という方や患者様からの希望があれば随時全身麻酔での施術が可能です。(図9)
手術室の風景
眼内レンズ強膜内固定術 05入院期間について
眼内レンズ強膜内固定術は日帰り手術でも可能ですが、消毒が必要なため翌日の通院が必須です。入院の場合は1~2泊が一般的ですが、遠方からの来院の患者様や長期入院希望の方には柔軟に対応させて頂きます。ご希望がありましたら、患者支援室での入院説明時に遠慮なくお申し付けください。
眼内レンズ強膜内固定術 06術後の見え方について
最終的な視力は通常の白内障手術とほぼ同様になりますが、通常の白内障手術と比べ時間がかかること、また硝子体手術も同時に行うため術後視力の改善には時間がかかります。
通常、手術翌日はぼやけている事が多く、1~2週間程度で徐々に改善していきます。
最終的な視力安定には3カ月程度かかります。
原因疾患によってはそれ以上(半年~1年)かかることもあります。
眼内レンズ強膜内固定術 07合併症について
術後に眼内レンズが傾斜したり、位置が中央からずれることが稀にあります。見え方に影響したり、眼内レンズの脚が結膜上に露出する場合などには再手術が必要となることがあります。
また、手術後に硝子体内や前房内に出血を起こすこともあります。軽度であれば吸収をまちますが、出血が多い場合には追加の処置や再手術を行います。
合併症で特に重篤なものとして眼内炎と網膜剥離があります。(これらは白内障手術など他の手術でも起こりえます。)
眼内炎のスリット写真
前房に白色の膿が生じており眼底の透見は不能
眼内炎は手術中や術後に、創口から細菌が眼内に侵入することで強い炎症をきたします。2000~3000人に1人の頻度で発生します。眼の中に強い炎症を起こすため充血、眼痛を伴い急激な視力低下を起こします。刻一刻と症状が増悪するため、当日のうちに抗菌剤を混合した灌流液で硝子体を洗浄する緊急手術が必要となります。(図10)
網膜剥離は硝子体術後に200~300人に1人の割合で発症します。術後に眼底の周辺部に残存した硝子体が収縮することで網膜裂孔を形成し、裂孔に硝子体液が流入することで網膜剥離へ進展します。網膜剥離が生じると急激な視力低下、視野欠損を自覚します。眼内炎と同様、緊急手術が必要となります。(図11)
網膜剥離の眼底写真
このほかにも術後高眼圧、低眼圧、角膜浮腫など一過性のものや、水晶体や眼内レンズを取り出す切開創が大きくなった場合には縫合を要するため、乱視が増えることもあります。また続発緑内障、脈絡膜出血など追加で処置や手術が必要となる合併症もあります。
眼内レンズ強膜内固定術 08当院における硝子体手術の特徴
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多数の手術実績
年間1,300件以上と国内でも有数の手術件数を誇ります。黄斑前膜や黄斑円孔などの黄斑疾患から、裂孔原性網膜剝離、増殖性硝子体網膜症、増殖糖尿病網膜症などの難度の高い手術全てに対応しています。硝子体術者が複数名在籍しており、術者間の情報共有により標準化された手術の提供が可能です。
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充実の入院設備
当院では眼科専門病院としては国内でも異例の46床を有しております。遠方から御来院の方、持病をお持ちで入院の方が安心という方、日帰り手術だと翌日の受診が面倒で入院したいという方など、希望があれば随時入院で対応させて頂いています。非常勤の麻酔科も招聘しており、局所麻酔で不安の方も安心して手術を受けて頂けます。
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急患は即日対応
当院では茨城県内全域のほか、県外かも多数の裂孔原性網膜剝離の患者様をご紹介頂いています。「全ての急患を受け入れる」をモットーに病院全体で受け入れ体制を構築しています。病床が満床の場合でも、提携している近隣ホテルへの送迎を行い対応させて頂います。日曜日・祝祭日も眼科医による当直体制を敷いており、全日での対応が可能です。
「日本一フットワークの軽い眼科病院」を目指し今後も職員一同精進してまいります。