角膜移植
角膜移植 02角膜混濁とは
角膜混濁は外傷やウイルス、細菌感染を起こし、角膜実質層まで深く障害が及び、角膜の透明性が失われた状態のことをいいます。角膜混濁により視力低下が生じた場合、角膜移植が適応になります。
*角膜混濁:角膜の中央部が混濁し、血管も侵入している。
角膜移植 03円錐角膜とは
円錐角膜は、角膜の中心部の厚みが薄くなり、角膜が前方に円錐状に突出する疾患です。これにより角膜に歪みが生じて乱視を引き起こし、視力が低下します。通常は両眼に生じますが、左右眼で程度に差がある場合も多くあります。思春期に発症することが多く、若年ほど進行が早くなります。30〜40歳台になると進行が停止すると言われていますが、個人差があります。目を擦る方やアトピーの方に多い傾向があります。
治療は、軽度の場合、円錐角膜専用のハードコンタクトレンズで視力矯正が可能です。進行が認められる場合は進行を抑制するために角膜クロスリンキングが適応になる場合があります。
円錐角膜により角膜の突出が高度になり、ハードコンタクトレンズでは視力矯正ができない場合は角膜移植の適応になります。
- 右眼
- 左眼
*右眼の円錐角膜は軽度で下方にやや突出している部分がありますが(黄矢印)、角膜は透明性を保っています。
左眼は、中心部から下方にかけて角膜が突出しており(青矢印)、瞳孔(黒目)の下方に混濁が生じています(赤矢印)。混濁が生じ、ハードコンタクトレンズでは視力向上が見込めない場合は角膜移植の適応になります。
角膜移植 04水疱性角膜症
水疱性角膜症は、角膜の内皮細胞の機能である角膜内の水分調節機能が低下し、角膜内に多量の水分が貯留した状態です。角膜内の水分量が多い場合、角膜浮腫を生じ、透明性を維持できなくなることで視力低下を生じます。
角膜内皮細胞は一度減少すると再生することはなく、周辺から埋め合わせることしかできません。内皮細胞数が減少することで機能が低下します。
治療方法は角膜移植が適応になります。内皮細胞のみの障害であれば、角膜内皮周辺のパーツ移植が可能になります。
*水疱性角膜症:角膜内皮機能の低下により角膜内の水分量が増加し、透明性を維持できなくなっている。
角膜移植 06全層角膜移植
全層角膜移植(penetrating keratoplasty ; PKP)は角膜移植で従来最も一般的に行われてきた術式です。
角膜移植の中で全層角膜移植は、輪部機能不全などの一部の症例を除いてあらゆる疾患に対応可能です。特に内皮機能不全と実質混濁を合併する場合は全層角膜移植が有用です。
全層角膜移植の手術方法
①手術前
②中央の角膜の全層を円状に切除する
「トレパン」という器具を用いて、角膜を円形に打ち抜く。
円状の角膜を取り外す
③ドナー角膜を同じ形に切除し、移植する
ドナー角膜を取り除いた部分に置く。
④移植片を縫合する
仮縫い後に連続で縫合する。
円錐角膜により角膜が高度に突出して角膜移植を施行した方
術前
矯正視力(0.04)まで
角膜が突出している。
屈折力がつよくなっており、中心部分が白く表示される。
術後 6ヶ月後
矯正視力(0.5)に改善
角膜は透明になり、突出は改善されている。
強度の屈折変化が改善されている。
角膜移植 07角膜内皮移植
角膜内皮層は角膜内の水分量を調整する役割を担っています。内皮細胞の密度が減少すると機能不全が生じ、角膜内の水分量が多くなってしまうことにより水疱性角膜症が生じます。水疱性角膜症になると初期では視力低下や目のかすみを訴えます。症状は起床時にはじまる一過性のことが多く、内皮障害の進行に伴い持続時間は延長し、最終的に終日見えにくくなります。
①術前
②デスメ膜と内皮を円形に剥離する
③ドナー角膜内皮を前房内に引き込み、空気で接着させる
ドナーの角膜内皮を機器にセットして、眼内へ引き込む。
角膜の中心に位置をとり、空気を入れて完全に密着させます。
※術後は空気で接着させるため1時間の仰向けでの安静が必要です。
※術後2〜3週間は眼を強くこすらないようにしてください。
白内障術後に角膜内皮細胞が減少して水疱性角膜症になり角膜内皮移植を施行した方
術前
矯正視力(0.1)
角膜に浮腫が生じ、透明性が維持できなくなり視力が低下している。
中心角膜の厚みの正常値は約520μmであるが、角膜内に水分が貯留することにより角膜が膨化し、650μmを超えている。
術後 6ヶ月後
矯正視力(0.7)
角膜の透明性が向上し、視力も向上している。
角膜の内側にドナー角膜内皮が接着していることが確認できる。
角膜移植 08表層角膜移植
全層角膜移植と異なり、表層角膜移植は傷害された部分を交換するパーツ移植になります。
適応は角膜内皮機能が保たれている場合や、実質混濁がある場合、円錐角膜などの変形を伴う場合に用いられます。
全層角膜移植よりも優位な点は自己の内皮細胞を温存することが可能であり、内皮型拒絶反応がないことです。上皮型や実質型の拒絶反応の発生頻度は低く、術後のステロイド点眼を早期に終了することができます。
しかし、手術中に全層角膜移植に変更する可能性もあります。
①術前
②角膜の内側にある内皮層は残し、それ以外を円状に切除する
③ドナー角膜を同様の形に切除して内皮層以外を移植する
④移植片を縫合する
角膜移植 09術後の注意点
- 移植した角膜片は、大変細い糸で縫い合わせているので、手術後しばらくは衝撃に非常に弱い状態です。不用意に人の手が当たったり、強くこすったりするだけで傷口が開く可能性があります。傷口がしっかり付くまでの目安は術後3~6ヶ月と言われており、癒着が完成しても強度は正常角膜の半分くらいであると言われています。
- 術後は清潔を心がけてください。手術後にバイ菌が目に入って感染を起こすと、失明につながる場合もあります。「定期的に目薬をつけ、通院すること」が重要です。角膜移植は、手術したからもう安心、ということではなく、むしろ手術と同じくらい術後の管理が非常に重要です。
- 最後に、最も重要なのが「異常を感じたら直ぐに連絡」です。術後の合併症は、早い時期に適切な治療を行えば回復出来るものがほとんどです。おかしいと思ったら、すぐにご連絡ください。
角膜移植 10術後の合併症
手術後しばらくしてから起こりうる主な合併症を説明致します。
拒絶反応
拒絶反応とは、移植された角膜を排除しようとする体の働きです。角膜移植の場合は、手術後3~6ヶ月くらいしてから発症することが多いのですが、1年以上経ってから発症することもあります。症状は、ぼやけて見えるなどが多く、それ以外に目の充血や軽い痛みを伴うこともあります。拒絶反応の起こる確率は、元の疾患によって変わります。拒絶反応が起きた場合には、一刻も早く治療を始めることが重要なので、なるべく早く診察を受けるようにして下さい。一般的には、拒絶反応の約3分の2は、薬によって元に戻すことが出来ると言われています。また、半数近くのケースは、点眼を自己中止した症例であるという報告もあり、点眼と通院の指示はきちんと守りましょう。
眼圧上昇・緑内障
眼圧上昇の結果、視神経・視力に障害を来す病態です。先ず点眼、内服薬で眼圧を下げます。ステロイド剤に反応して眼圧が上がることがありますが、反対にステロイド剤で治るケースもあります。眼圧を下げる手術が必要になることもあります。術前から緑内障のある方は特に注意を要します。
角膜上皮欠損
角膜上皮がはがれてしまって、傷になってしまっている状態です。長引く場合は入院治療となります。悪化すると角膜潰瘍になります。
角膜潰瘍
長引く場合は入院治療となります。病気のコントロールがうまくいかない場合は長期入院となったり、再移植が必要となったりします。悪化すると角膜穿孔、眼内感染になる可能性があります。感染に対しての注意が必要です。
縫合糸の緩み・断裂等のトラブル
縫合糸の緩み、断裂等があると炎症が起こります。拒絶反応の原因となることがあります。傷口が癒着していれば抜糸で対処します。癒着していない場合は手術治療となりますが、その場合短期入院が必要になることもあります。
打撲後の傷口の離開
打撲や転倒などによって傷口が離開することがあります(約2%)。その場合入院手術が必要になることが多く、視力が回復しない場合もあります。術後数年以上経っても起こりうるので、転倒しやすい高齢者の方などは、長期に渡りゴーグルなどで保護をした方が安全です。
眼内炎などの感染症
入院治療となります。特に重症の場合は、専門病院への紹介が必要となり、角膜移植・眼底手術の合同手術となることもあります。最悪の場合、失明の恐れがあります。
プライマリー・グラフト・フェイリアー
角膜移植術中、及び術後、ドナー角膜が一度も透明に ならない状況をいいます。移植後の角膜のチェックは出来ることは全て行っていますが、ごくまれにこのような状況が起こります。
免疫抑制剤による全身的な副作用
主にネオーラルなどの内服を拒絶反応予防のために続けている方に起こり得ます。定期的な全身検査で副作用の発生を未然に防ぐようにしていますが、異常が顕われた場合は、薬剤の減量・中止などを行うことがあります。
ヘルペス・ブドウ膜炎の再発
角膜移植前にこれらの病気がある方はその再発に注意します。
縫合不全
縫合糸の緩みや断裂により傷口が開いてしまったり、房水が漏れ出してしまう状態です。感染症や低眼圧になってしまうばかりでなく、内皮障害等が起こりえます。このような場合は、再縫合する場合や、治療用コンタクトレンズの装用、点眼薬による対応がとられます。