加齢黄斑変性
加齢黄斑変性 01加齢黄斑変性とは
私たちは眼の奥の網膜(カメラに例えるとフィルムに相当する部分)に光を集めてものを見ており、その網膜の中心部で光を感じる感度の高い部位を黄斑といいます。
正常眼の眼底写真と網膜の断層写真(OCT)
加齢黄斑変性はその黄斑部に加齢に伴い障害が起こる疾患です。欧米では以前から成人失明原因の第1位を占める疾患で、日本でも第4位となっています。近年日本でも増加傾向にあり、2007年時点で50歳以上の日本人の1.4%に生じているといわれています(ちなみに1997年では0.87%でした)。
加齢黄斑変性には以下の二つのタイプがあります。
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滲出型:網膜のさらに奥にある脈絡膜から、新生血管という異常な血管が発症し、黄斑部に出血や浮腫を起こし視力が急激に低下します。
滲出型加齢黄斑変性の眼底写真とOCT眼底写真で出血や浮腫、OCTで浮腫が見られます。
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萎縮型:新生血管は発症しませんが、加齢により網膜が障害され視力が徐々に低下します。
萎縮型加齢黄斑変性の眼底写真、眼底自発蛍光、OCT眼底写真で網膜の萎縮が見られますが、眼底自発蛍光という特殊な条件で眼底写真を撮ると、その部分が暗く映ります。OCTでは正常眼と比較して、中央のくぼみが目立たなくなり、網膜が萎縮している所見です。
日本人の加齢黄斑変性の患者さんのほとんどは滲出型加齢黄斑変性です。
加齢黄斑変性 02加齢黄斑変性の原因
加齢黄斑変性は年を重ねると誰にでも発症する可能性がありますが、発症リスクを高めるものとして加齢のほかに、喫煙や太陽光なども報告されています。特に喫煙は最大の危険因子とされており、禁煙をお勧めします。
また、軟性ドルーゼン(網膜に蓄積される老廃物)は加齢黄斑変性の前駆病変(病気の予備軍)として重要です。眼底に軟性ドルーゼンがあっても自覚症状がでないことが多く、また治療の必要はありませんが、検診でドルーゼンや黄斑異常を指摘された場合には定期的な受診をお勧めします。
中央の黄色い部分がドルーゼン
(老廃物の沈着)です。
加齢黄斑変性 03加齢黄斑変性の症状
加齢黄斑変性になると、網膜の中心部が障害されるため以下のような症状がでます。
また、治療せずに放置すると視力は(0.1)をきることが多いです。
- 歪んで見える
- 中心が暗くみえる
- ぼやけてみえる
加齢黄斑変性 04加齢黄斑変性の治療
治療を行う前に、しっかりと診断をつけることが大切です。眼底検査で加齢黄斑変性が疑われる場合、造影検査をおこない、新生血管が検出されれば滲出型加齢黄斑変性の診断となります。また、滲出型加齢黄斑変性にはさらに3つのサブタイプがあり、サブタイプにより治療法を変えることもあります。
造影検査:矢印で囲まれた部位が新生血管です。
萎縮型加齢黄斑変性:萎縮型には残念ながら現在のところ有効な治療法はありません。(現在の医学では傷んだ網膜を治すことはできず、新生血管を抑える治療を行いますが、萎縮型加齢黄斑変性では新生血管がないため、治療の方法がありません。)しかし、海外の大規模臨床試験の結果、ルテイン・ビタミンC・E、亜鉛などを含むサプリメントを摂取することで進行のリスクが低くなることが分かっており、サプリメントの内服をお勧めしています。
滲出型加齢黄斑変性:滲出型の治療は新生血管を退縮させることで、黄斑の機能を維持・改善することが治療の目的となります。
薬物治療
新生血管を成長させる血管内皮増殖因子(英語の頭文字をとってVEGFと呼びます)を抑える「VEGF阻害薬」を眼球内に注射します(硝子体内注射)。「眼球に注射」と聞くと心配される患者さんも多いですが、眼球(硝子体)内に直接薬剤を投与することで、全身的な副作用のリスクを軽減し、眼内の病変に対してより強く治療効果を引き出すことができます。
硝子体内注射は日帰りで行います。実際の流れは、「点眼麻酔→目の周りの消毒→白目(強膜)から針を刺し、硝子体内に直接薬剤を注入→軟膏をつけて終了」という流れで、5分程度で終わります。麻酔の効果、および採血よりも細い針を用いることで、目をわずかに押される感じは残りますが、痛みを感じることは滅多にありません。細菌感染を防ぐために術前および術後3日間、抗生剤の点眼をつけていただきます。
硝子体内注射をすると…新生血管の活動性が抑えられむくみ、出血が減る。
レーザー治療
光に反応する特殊な薬剤を点滴し、その薬剤が新生血管に集まったタイミングでレーザーをあてて新生血管を固める治療です(光線力学療法)。点滴する薬剤は光に反応するので、治療後、強い光に当たると光過敏症などの合併症が起こることがあり、太陽光などを避ける必要があります。当院では1泊2日の入院で治療を行っています。また、光線力学療法は単独で行うことは少なく、硝子体内注射と併用して行います。
光線力学的療法をすると…新生血管が退縮する。
滲出型加齢黄斑変性のサブタイプ、患者さんごとの病状、全身状態などをもとに硝子体内注射単独で治療するか、光線力学療法を併用するか、さらにはどの薬剤を用いるか(現在は加齢黄斑変性に対し3種類の薬剤が使用できます)、投与の間隔などの治療法を検討しています。
しばらく病状が安定していると、通院を自己中断される患者さんがいらっしゃいますが、加齢黄斑変性に対しては、病状が落ち着いていても新生血管は残存しています。治療で良好な視力を保っていても、しばらく通院が途絶え、再診時には急激な視力低下をきたしていることも多い疾患です。定期的にきちんと通院しましょう。
約1年再燃なく経過良好も、新生血管は残存しています。
加齢黄斑変性は加齢が主な原因で起こるものです。高齢化が進む中、実臨床でも患者数は増えていると実感します。視力が低下し生活に支障をきたす疾患ですが、検査や治療の進歩により早期発見・早期治療で良好な視力を守れるようになってきました。ただし、まだ根治療法はできません。視力を維持するためには定期的な治療を行うことが必要です。治療の途中で気になることや疑問があれば、いつでも声をかけてください。患者さんと二人三脚で一緒になって視力を守っていきましょう。