甲状腺眼症
甲状腺眼症は、甲状腺自己抗体に関連し、眼部組織が標的となる自己免疫性疾患です。
大半は甲状腺機能亢進状態の人に生じますが、約1 割では甲状腺機能が正常または低下の状態でも生じます。
一度発症した眼症は甲状腺機能とはほぼ無関係に変動します。
甲状腺眼症 01発症機序
- 甲状腺眼症の人では、眼の周りの結合組織を構成する細胞(線維芽細胞)における甲状腺を刺激するホルモンの受容体の数が多くなっています。この受容体が刺激されると、線維芽細胞からサイトカインという免疫活性物質が放出され、眼周囲組織の異常増殖や脂肪の増生を引き起します。加えて、活性化した線維芽細胞は、親水性のグリコサミノグリカンという物質を産生し、組織の浮腫を引き起こします。
- 甲状腺眼症の経過には、「炎症期」と「回復期」があります。
- 炎症期:急性炎症が急激に悪化し、消退するまでの時期。数か月~数年。
- 回復期:炎症が消退し、合併症が前面に出現する時期。
- 例外的に、甲状腺機能亢進症に対する治療中に、病状が悪化することがあります。
- 喫煙や糖尿病は、甲状腺眼症の代表的な増悪因子です。
- 甲状腺眼症を火事に例えると、炎症期にできるだけ早く消火活動(=薬物治療や放射線治療)を行うことによって回復期の後遺症状を抑えることができ、後々の再建手術でよりきれいに治しやすくなります。
甲状腺眼症の経過:未治療の自然経過よりも、炎症期において治療介入したほうが、重症度のピークは抑えられ、後の回復期における後遺症状も軽くなる。
甲状腺眼症 02症状
眼球突出
- 眼球後方の組織(脂肪や筋肉など)が増大することによって生じます。
左右で差があることもあります。
まぶたの症状
- 眼瞼後退:上下のまぶたが過度に牽引され、目を見開いたような顔貌となります。
- 眼瞼おくれ:下方視時に眼球の動きに上眼瞼がついてこず、上の白目が露出します。
- 逆まつげ:眼球突出によってまつ毛が眼球に接触しやすくなります。
眼球運動障害
- 眼球を動かす筋肉が固くなり、伸びにくくなることによって生じます。重症例になると、正面視でも物が二重に見え(複視)、日常生活に大きな支障をきたします。
角膜病変(眼の表面の異常)
- ドライアイ:必発の症状です。充血、眼の乾燥感、ゴロゴロする、光がまぶしいなどの症状を生じます。
- 兎眼(閉瞼困難):まぶたの異常や眼球突出によって眼が閉じにくくなり、角膜にびらん(傷)や潰瘍(細菌感染)を生じることがあります。
甲状腺視神経症
- 甲状腺眼症の約5%に認められます。腫大した筋肉などにより視神経が眼の後方で圧迫されることにより生じます。長期に及ぶと、重度の視力障害が残ることがあります。
甲状腺眼症 03治療
炎症期は病勢を沈静化し悪化を防ぐこと、回復期は機能と整容の改善が目的。
炎症期
- 禁煙:喫煙者は禁煙が非常に重要です。受動喫煙も避けてください。
- ステロイドパルス療法:ステロイドを大量かつ短期間に投与することによって、リンパ球や白血球を主体とした炎症細胞の浸潤とその免疫反応を抑制し、炎症を軽減させる治療です。治療は3日間の点滴を1クールとし、症状に合わせて2〜3クール行うこともあります。
- 放射線治療:ステロイドと同様に、炎症細胞の浸潤とその免疫反応を抑制して炎症を軽減させます(当院には設備がないため、必要時は対応できる施設にご紹介します)。
回復期
- 斜視手術:主に炎症によって固くなっている筋肉の付着部を後ろにずらす手術を行い、眼球の向きを正常に近づけます。
- 眼瞼手術:眼瞼後退に対して耳介軟骨移植などによる眼瞼延長術、まつげの眼球への接触に対して眼瞼内反症手術などを行います。
- 眼窩手術:眼球突出に対して、眼窩(眼球が収まる頭蓋骨のくぼみ)の骨を削ってスペースを拡張し、突出度を軽減する手術を行います(眼窩減圧術:当院では行っていないため、専門施設にご紹介します)。