網膜静脈閉塞症
網膜静脈閉塞症 01網膜静脈閉塞症とは
私たちは眼の奥の網膜(カメラに例えるとフィルムに相当する部分)に光を集めてものを見ています。この網膜に血液を供給する血管のうち、静脈が詰まったものが網膜静脈閉塞症です。閉塞する部位によって網膜中心静脈閉塞症と網膜静脈分枝閉塞症に分けられ、網膜静脈の根元が詰まったものが網膜中心静脈閉塞症、途中が詰まったものが網膜静脈分枝閉塞症です。
- 【正常眼】
- 【網膜中心静脈閉塞症】
網膜全体に出血が見られる。 - 【網膜静脈分枝閉塞症】
網膜上方に出血が見られる。
網膜静脈閉塞症 02網膜静脈閉塞症の原因
網膜の血管(動脈と静脈)は所々で接して走行しており、動脈硬化などで硬くなった動脈によって静脈が圧迫されることによって、血流が滞り静脈閉塞症が発症します。
高血圧、高脂血症、糖尿病があると発症しやすいとされています。
網膜静脈閉塞症 03網膜静脈閉塞症の症状
静脈が閉塞することにより、出血(動脈を通って血液が流れ、静脈を通って戻ってきますが、閉塞した部分から先へは血液が流れていかないため、血液が溢れ出します)したり、網膜の中心(黄斑部)の浮腫(むくみ)を起こします。出血や浮腫により視力低下や変視症(ものが歪んでみえる)、小視症(ものが小さくみえる)という症状が生じることがあります。また静脈が閉塞した部位の感度が落ち、暗く見えたりする視野障害を生じることもあります。
発症時の出血が大量である場合には眼球内に出血(硝子体出血)を生じることがあり、急激な視力低下を起こすこともあります。また、治療中にも新生血管という未熟な血管から出血を起こし、硝子体出血を起こすこともあります。
- 霞んでみえる
- 歪んで見える
- 視野が欠ける
- 出血したところが暗く見える
網膜静脈閉塞症 04網膜静脈閉塞症の治療
血管が閉塞し血流の悪くなった網膜から血管内皮増殖因子(英語の頭文字をとってVEGFと呼びます)という物質が産生されます。このVEGFにより網膜の中心部(黄斑部)に浮腫を生じます(黄斑部浮腫)。浮腫があると視力低下をきたすとともに、浮腫が遷延化するとさらに網膜への障害が進み、徐々に視力が低下します。また、VEGFに反応して新生血管という出来損ないの血管ができることがあります。この血管はもろいため、突然切れて眼内に大出血(硝子体出血)を起こすことがあります。さらに、この新生血管が眼の中を循環している液体(房水)の出口である隅角に生じると、房水の流出がさまたげられ、眼圧が上昇してしますことがあります(血管新生緑内障)。血管新生緑内障は予後が極めて悪く、失明に至ることも多い難治性の疾患です。
網膜静脈閉塞症の治療はVEFGを抑えることにより、黄斑部浮腫によるさらなる視力低下を防ぐことと、新生血管をできるだけ生じさせないことを目的とします。そのために以下の治療を行います。
薬物療法
VEGFを抑える「VEGF阻害薬」を眼球内に注射します(硝子体内注射)。VEGFを抑えることにより、「黄斑部浮腫を改善する」ことが期待できます。黄斑部浮腫は視力の低下に直結するため、網膜静脈閉塞症で黄斑部浮腫を伴う場合には、まず初めに硝子体内注射を行います。硝子体内注射により黄斑部浮腫は改善することが多いですが、病気自体が治るわけではないため、浮腫が再燃した場合には追加の治療が必要となります。
「眼に注射」と聞くと心配される患者さんも多いですが、眼球(硝子体)内に直接薬剤を投与することで、全身的な副作用のリスクを軽減し、眼内の病変に対してより強く治療効果を引き出すことができます。
硝子体内注射は日帰りで行います。実際の流れは、「点眼麻酔→目の周りの消毒→白目(強膜)から針を刺し、硝子体内に直接薬剤を注入→軟膏をつけて終了」という流れで、5分程度で終わります。麻酔の効果、および採血よりも細い針を用いることで、目をわずかに押される感じは残りますが、痛みを感じることは滅多にありません。細菌感染を防ぐために術前および術後3日間、抗生剤の点眼をつけていただきます。
正常眼の網膜断層写真(OCT)
レーザー治療
血管が閉塞し血流の悪くなった網膜にレーザーを照射することで、VEGFの産生を抑えることが期待できます(レーザーを当てた網膜は死んでしまうため、その部分からのVEGFの産生が減少します)。レーザー治療により黄斑部浮腫や視力の改善はできませんが、血流の悪い範囲が広い場合には、硝子体出血を予防するために施行します(VEGF産生を抑えることにより新生血管発症のリスクを下げます)。血流の評価には通常、造影剤を用いた検査が必要ですが、当院では造影剤を必要とせずに血管撮影を行うことができる機械を備えており、侵襲なく血流の評価を行うこともできます。
造影剤を用いた血管造影検査
OCT angiography (造影剤を必要としない血管撮影)
いずれも左上の黒く抜けている部分が、血流が低下している領域です。
手術療法
硝子体出血が生じた場合には、眼内の出血を直接除去する硝子体手術が必要です。また、VEGF阻害薬の効果が弱い場合には、浮腫を引きやすくする環境をつくるため、硝子体手術を行うことがあります。
網膜静脈閉塞症は視力が低下し生活に支障をきたす疾患ですが、治療法の進歩により適切な治療を行うことで、良好を維持することもできるようになってきました。ただし、同じように治療を行っても視力が守れない患者さんもいます。病勢を抑えることで硝子体内注射の間隔は徐々に伸びることが多いですが、まだ根治治療はできず、視力を維持するためには定期的な治療が必要です。治療の途中で気になることや疑問があれば、いつでも声をかけてください。我々も患者さんそれぞれの病状に応じた治療法を検討し、提案させていただきます。患者さんと二人三脚で一緒になって視力を守っていきたいと思います。