網膜復位術

網膜復位術とは

若年者の格子状変性に伴う萎縮円孔(いしゅくえんこう)が原因の網膜剥離や、網膜の最周辺部の鋸状縁(きょじょうえん)に裂孔や断裂を認める網膜剥離に対して行う手術です。若年者は硝子体がしっかりしており、術後に内側から裂孔をおさえ閉鎖させる効果が期待できることから、硝子体を切除しない本術式が選択されます。内側に剥がれてしまった網膜を、眼球を凹ませることでくっつける手術です。他にも強膜内陥術や、強膜バックリング手術などの名がありますが同義です。網膜復位術には「局所バックル」と「全周バックル」の2種類があります。

結膜(白目)を切開して、結膜の下の強膜(白目)という結合組織に、シリコン製のスポンジ(バックル)を縫着して、眼球の外側から内側に隆起を作り、隆起の上に網膜裂孔をのせる方法です。網膜剥離や網膜変性巣の範囲をカバーするように設置します。

網膜復位術の様子

網膜復位術の様子

網膜裂孔が閉鎖すると、網膜の下に貯留していた液体(網膜下液)は網膜色素上皮という基底膜のポンプ機能によって徐々に吸収されていきます。若年者の網膜下液は粘稠なため、吸収には半年~1年近くかかることもあります。
網膜裂孔が瘢痕化して網膜面に接着するようにバックルを設置する前に冷凍凝固を行います。裂孔から色素細胞が散布されるため、術後一時的に飛蚊症の増加を自覚することがありますが、この操作は裂孔閉鎖を促進するうえでも必須の手技です。網膜下液が多い症例では、強膜を切開・穿刺して網膜下液を眼外に排液します。排液操作をすることで術後良好な網膜復位が得られますが、排液時は眼底出血や網膜穿孔など重篤な合併症が発生する事もあるため、排液が本当に必要かどうかは慎重に検討します。

バックル素材を眼球全周にわたって縫着する手術を全周バックル(輪状締結術)と呼びます。基本的な操作は上述の局所バックルと同じですが、全ての外直筋(上直筋・下直筋・外直筋・内直筋)の下にバックルを通すため、局所バックルに比べると大掛かりな手術となります。全周に変性巣や裂孔がある場合(強度近視、アトピーによる網膜剥離、家族性滲出性硝子体網膜症など)や、硝子体手術後の再剥離の場合に行われます。

眼球をきつく締め付けてしまうと前眼部虚血など、重篤な合併症を生じる可能性があるため、局所バックルよりも平坦な素材を用いて行います。冷凍凝固や網膜下液は局所バックルと同様、必要に応じて行います。


術後の安静について

網膜復位術では一般的には術後の体位制限はありません。しかし、手術終了時に空気やガスを入れて終わった場合は横向きなどの体位制限が数日必要となる事があります。


合併症について

網膜復位術による合併症には、主に以下の3つのものがあります。

この他にも術後高眼圧、角膜浮腫など一過性のものから、続発緑内障、視野障害、硝子体出血、通糸時の網膜穿孔など追加で処置や手術が必要となる合併症もあります。

網膜復位術は眼球を動かす外直筋の下にシリコン製のバックルを通すため、術後に眼球運動障害を引き起こすことがあります。この場合、主にバックルを巻いた方向への運動制限が起き、その方向を見ようとすると物が二重にダブって見える複視を自覚します。長期的には軽減することが多いですが、症状が永続し日常生活に支障が出る場合、プリズム眼鏡や症状固定後に斜視手術が必要となることがあります。なお、重症例では手術を行っても完全に複視が消失しないこともあります。

眼球を内陥させることで眼球の形を局所的に変形させる為、近視や乱視が増強することがあります。眼球全周を巻き付ける全周バックル(輪状締結術)では高確率で発生します。術後に視力が安定してから、眼鏡やコンタクトレンズの調整が必要となります。

発症頻度は少ないですが、網膜復位術では稀に眼内炎が起きることがあります。眼内炎は手術中や術後に創口から細菌やウイルスなどが眼内に侵入することで強い炎症をきたします。眼底出血や網膜血管の閉塞など経時的に急激に悪化していくため、抗菌剤を混合した灌流液で硝子体を洗浄する緊急手術が必要となります。炎症が黄斑部まで波及すると、術前より視力低下してしまう事もあります。


術後の視力予後について

視力に最も重要な黄斑部(おうはんぶ)が術前に剥離しているかどうかで術後の状態が決まります。黄斑部が剥離していない場合は、術後に網膜復位が得られれば、基本的には前の状態に治ります。術前に黄斑部が剥離していた場合は、術後に網膜が復位しても、視力は完全に元通りに回復はしません。変視症(物が歪んで見える症状)や小視症)物が小さく見える症状)などが残存する可能性があります。 一般的に、黄斑部が剥離してからの期間が長い人、高齢者、網膜剥離の丈が高い人は視力予後が不良と言われています。そのため、網膜剥離の手術は特に迅速な対応が必要となります。当院では緊急性の高い病態に対しては、当日中の治療を心掛けています。