小沢眼科内科病院

抗がん剤による目の副作用

はじめに

近年、数多くの抗がん剤が開発され、その眼副作用(特に、涙道障害と角膜上皮障害)が問題視されています。原因薬剤の報告はいくつかありますが、その中でも眼副作用の出現頻度が高いとされる代表的な薬剤は、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(ティーエスワン®︎:以下、TS-1®︎)です。

TS-1®︎は、5-フルオロウラシル(以下、5-FU)のプロドラッグであるテガフールに5-FUの分解酵素阻害薬ギメラシルと、5-FUの消化管毒性を軽減するリン酸化阻害薬オテラシルカリウムを配合した経口抗腫瘍薬です。その有効性の高さから、結腸・直腸癌、頭頸部癌、非小細胞癌、乳癌、膵癌、胆道癌などの幅広い疾患に対し保険適用が広がり、国内における癌化学療法の中心的薬剤となっています。

TS-1®︎は、その成分であるテガフールと5-FUが血漿中から涙液中に移行することによって、涙道上皮の肥厚と間質の線維化を引き起こし、涙点や涙小管に狭窄を生じます。また、角膜上皮基底細胞の増殖を抑制することによって角膜上皮障害が生じると考えられています。

そこで、今回はTS-1®︎のこれらの眼に関する副作用について、その臨床像と当院でおこなっている治療法についてご案内させていただきます。

抗がん剤による目の副作用

抗がん剤による涙道・角膜上皮障害について 01涙道障害について

ほとんどが両側性で発生頻度は約10〜25%、発症時期は内服開始後間もない時期から1年以上経過して発現するケースまでばらつきがあります。涙点や涙小管が高頻度に障害を受け、それらの狭窄が進行すると、やがて不可逆的な涙道閉塞を来します。

治療法

TS-1®︎内服期間中は、涙液中に含まれたTS-1®︎を洗い流す目的で、防腐剤無添加人工涙液(ソフトサンティア®︎)を1日6回点眼するように指導し、数ヶ月に1回は通水検査を行います。

また、流涙症状を自覚している患者様に対しては、通水の可否に関わらず、不可逆的な涙道閉塞に進行するのを回避する目的で、速やかに涙管チューブを挿入するよう心がけています。その際、涙道狭窄が疑われる場合は、仮道形成を避けるために涙道内視鏡を併用します。涙管チューブ挿入術は、日帰り手術でおこなっています。

チューブは、TS-1®︎内服期間中は継続して留置し、定期的に通水洗浄を行います(休薬中も同様です)。また、TS-1®︎内服終了から2〜3ヶ月経過した時点でチューブ抜去を行うようにしています。

すでに高度な涙小管閉塞をきたし、涙小管形成が困難な場合、ガラス製の管であるJones Tubeを用いた結膜涙囊鼻腔吻合術を行います。結膜涙囊鼻腔吻合術は、全身麻酔下でおこない、2泊3日程度の入院スケジュールとなります。

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抗がん剤による涙道・角膜上皮障害について 02角膜上皮障害について

涙道障害と同様、ほとんどが両側性に起こります。投与後比較的早期に軽度の障害が出現します。投与後3か月から1年後を経過すると、やがて角膜上皮の幹細胞に異常が生じて、正常な角膜上皮が再生されなくなり、下図のような病変を呈します。

一般的に、TS-1®︎内服を中止すると、約1〜2ヶ月で改善傾向がみられます。一方、投与期間が長期化することに伴い、上皮下混濁が残ると考えられています。涙道障害と同様、早期に治療介入することが望ましいです。

治療法

防腐剤無添加人工涙液(ソフトサンティア®︎)の頻回点眼を開始し、オフロキサシン眼軟膏や低濃度ステロイド点眼液などの併用を考慮します。涙道障害を合併している場合は、涙道再建を行う事によって角膜上皮障害も改善します。

抗がん剤による目の副作用

角膜の上方から進展している病変(黄色い染色液に染まっている筋状の部分)が、治療後縮小しているのがわかります。

最後に

TS-1®︎による涙道および角膜上皮障害について述べました。TS-1®︎の内服は、原疾患に対する治療の必要性・優先性を考慮した場合、これらの眼副作用を生じたとしても積極的に中止できるものではないと思われます。早期に治療介入することによって、TS-1®︎による不可逆的な眼障害を回避しながら、患者様に治療を継続していただくことが重要と考えています。症状にお困りの患者様がいらっしゃいましたら、当院涙道専門外来にご相談いただければと思います。

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