眼瞼けいれん
眼瞼けいれん 01眼瞼けいれんとは
眼の周りの筋肉が過度に収縮することによって、まばたきの制御異常が生じる疾患です。他の神経学的・眼科的異常が原因となっていないものが本態性眼瞼けいれん(以下、眼瞼けいれん)と定義されます。
本態性以外には、向精神薬や抗不安薬による薬剤性のもの、パーキンソン病などに伴う症候性のものがあります。
眼瞼けいれん 02症状
眼瞼けいれんは多彩な症状を呈しますが、必ずしも特異的な症状ばかりではありません。以下、代表的なものを挙げます。
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まばたきの異常、眼瞼の軽度けいれん
まばたきが思うようにできず、眼瞼の軽度のけいれん(攣縮)を認めます。
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羞明(まぶしい)
特に明所や屋外において強い羞明感を自覚します。
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開瞼困難
意思とは関係なく眼の周りの筋肉がけいれんすることよって、まぶたを開けること(開瞼)を維持することが難しくなります。進行例は、自発的な開瞼が困難になる開瞼失行に陥ります。
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眼瞼下垂
眼瞼けいれんによってまぶたが下がることがあります。
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眼の異物感・乾燥感(ドライアイ)
軽症例では、ドライアイとの鑑別が難しい場合があります。難治性ドライアイの約半数は眼瞼けいれんを合併している、という報告もあります。
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流涙(なみだ目)
眼の異物感や羞明が刺激となり、涙の分泌が亢進します。
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その他の症状
頭痛や眼の奥の痛み、耳鳴、肩凝りを訴えることがあります。さらに精神神経症状として抑うつ、焦燥感を自覚することもあります。
眼瞼けいれん 03薬剤性眼瞼けいれんを疑うとき
薬剤性眼瞼けいれんを疑うとき、抗不安薬と睡眠薬の服用歴についてお尋ねします。
- 抗不安薬
代表的な原因薬剤は、チエノジアゼピン系のエチゾラム(デパス®)です。比較的短期の服用期間であっても、症状を誘発することがあります。
エチゾラムは後発品が非常に多く、以前は様々な名称のジェネリック医薬品が発売されていました。近年は薬の一般名をつけることに統一する流れになっており、デパス®のジェネリックとしてはエチゾラム錠となっています。 - 睡眠薬
習慣的に服用している場合、症状を誘発することがあります。可能な限り、休薬・減薬し、数週間後に症状の変化を判断します。
眼瞼けいれん 04診断
眼瞼けいれんの診断は、以下の3項目が基本となります。
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問診による自覚症状の聴取
前述した眼瞼けいれんの症状の有無を聴取します。以下のような問診リストも参考になります。
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薬物服用歴
眼瞼けいれんは50歳代をピークに発症します。よって、特に若い年齢での発症では薬剤性を疑い、服用歴を尋ねることがより重要です。
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知覚トリック・誘発テスト(瞬目テスト)
本性に特徴的な症状であるため、診断に有用です。以下、各々について述べます。
知覚トリック
眼周囲の頬部、前額部、側頭部を押さえたり、引っ張ったりするとスムーズに開瞼できる現象です。「どこかを押さえたり、引っ張ったりすると眼が開きやすいか」問います。
瞬目テスト
3種類の瞬目を行ってもらい、重症度を判定します(日本神経眼科学会 眼瞼けいれん診療ガイドラインより)。
A:軽瞬テスト
軽く歯切れのよい瞬目を促すと、眉毛部も動く強い開閉瞼や、痙攣様の瞬目過多が生じます。重度では、瞬目そのものが不可能です。
B:速瞬テスト
できるだけ速い瞬目を連続して行うよう促します。10秒間に30回以上の随意瞬目できることが目安です。強い瞬目の混入や、他の顔面筋の不随意運動、顔面筋の強い攣縮発作を認める場合、陽性と判定します。
C:強瞬テスト
眼瞼を強く閉瞼し、その後開瞼させます。この動作を反復させ、開瞼困難や顔面筋の強い攣縮発作を認める場合、陽性と判定します。
眼瞼けいれん 05治療
眼瞼けいれんの治療は、保存的治療、ボツリヌス療法、手術に分けられ、それらを組み合わせます。以下、当院で行っている治療について説明します。
遮光眼鏡
眼瞼けいれんによる羞明や眼痛を軽減する目的で、短波長の光線をブロックする遮光眼鏡が有用です。当院ではレチネックスグラス(HOYA社)を取り扱っており、患者様の見え方に応じて処方できるようご相談承っております。
クラッチ眼鏡
クラッチ眼鏡は、通常の眼鏡にシリコンカバーをつけたワイヤーを、まぶたを押し上げるような角度で取り付けたものです。眉付近のまぶたを強く抑えると開瞼しやすくなる知覚トリックを応用したもので、眼瞼けいれんの半数以上で有効とされています。
ボツリヌス療法
A型ボツリヌス毒素(ボトックス®)が認可されている薬物で、有効率は80-90%、効果持続期間は2-4ヶ月とされています。しかし、10-20%は無効例であり、長期にボトックス療法を行うと、効果が減弱する例もあります。無効例や、効果不十分例に対しては、注射単位の増量や、注射部位の追加を考慮します。ボトックスの注射部位をお示しします。初回は、標準的な部位に注射し、 その後の反応をみて追加投与を検討しております。
眼瞼けいれん 06手術
ボトックス療法の無効例や難治例に対して手術を行います。術式は、眼輪筋拡大切除を基本とし、開瞼失行を伴う場合はゴアテックス®による前頭筋吊り上げ術を追加します。
これらの上眼瞼手術は、難治性眼瞼けいれんのボトックス療法の効果を増強させる効果があります。